この記事では、寅さん映画シリーズの「男はつらいよ 柴又慕情(第9作)」の作品の見どころを解説していきたいと思います。
<映画「男はつらいよ 柴又慕情(第9作)」の作品データ>

公開日 | 1972年8月5日 |
収録時間 | 107分 |
マドンナ | 吉永小百合 |
ゲスト | 宮口精二 |
監督 | 山田洋次 |
観客動員数 | 1,889,000人(シリーズ19位) |
同時上映 | 「祭りだお化けだ 全員集合!!」 |
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Contents
「男はつらいよ 柴又慕情(第9作)」作品のあらすじ
久しぶりに柴又へ帰ってきた寅次郎であったが、「とらや」の入口にぶら下げてある”貸間アリ”の札を見て驚愕する。
自分の住む部屋がなくなったと解釈した寅次郎は、不動産屋を何軒かはしごした挙句、結局「とらや」の自分の部屋へ連れてこられる。
さくらは、家を建てる資金にするために”貸間アリ”の札を下げたことを寅次郎に説明するが、寅次郎は自分の部屋を無断で貸したことに腹を立て、大ゲンカとなる。
寅次郎は、自分の非を認めたものの、「とらや」にいずらくなり、ふたたび旅に出てしまう。
その後、金沢で売をしていた寅次郎は、東京から観光旅行に来ていた歌子(吉永小百合)たちに遭遇し、意気投合する。
しばらくして寅次郎が柴又に戻ると、観光旅行で知り合った歌子が「とらや」へ訪れてくる。
結婚を許してくれない父親・修吉(宮口精二)のために、なかなか結婚に踏み切れない歌子は、さくらと博にそのことを相談し、結婚に踏み切る決断をする。
何も知らずに、歌子を迎えに来た寅次郎は、歌子から突然、愛知にいる男性と結婚する話を聞かされてしまう。
「男はつらいよ 柴又慕情(第9作)」作品のキャスト
- 車寅次郎:渥美清
- さくら:倍賞千恵子
- 博:前田吟
- おばちゃん:三崎千恵子
- おいちゃん:松村達雄
- 御前様:笠智衆
- 修吉:宮口精二
- 歌子:吉永小百合
<サブキャスト>
高橋基子/新村礼子/佐藤蛾次郎/太宰久雄/津坂匡章/谷よしの/後藤泰子/戸川美子/大杉侃二朗/北竜介/中田昇/沖田康裕/泉洋子/佐山俊二/青空一夜/桂伸治/吉田義夫
マドンナ:吉永小百合

<役名:高見歌子>
小説家の父・修吉(宮口精二)と二人暮らしをしているOL。
母親は、歌子が小さい時に亡くなっている。
結婚することを父・修吉に認めてもらえず、修吉をひとり家に残して結婚することができずに悩んでいる。
寅次郎とは北陸の観光旅行中に出会い、仲良くなるが、寅次郎のことを恋愛対象としては見ておらず、元気をもらえる楽しい人として見ている。
銀幕のスター・吉永小百合が寅次郎のマドンナ役で登場。
上品で、お嬢様といったイメージが作品全体をメルヘンチックな雰囲気に仕立て上げる。
吉永小百合は、第13作でも同じ役で登場することになる。
→「「男はつらいよ」に登場した寅さんの歴代マドンナ47人を徹底ガイド」
ゲスト:宮口精二

<役名:高見修吉>
歌子(吉永小百合)の父。
小説家として家にこもりっきりで執筆作業をしている。
歌子が小さい時に妻と死別し、歌子と二人暮らし。
歌子の結婚相手に会うことを頑なに拒み続け、歌子との仲が険悪なムードになっている。
この作品で渥美清との絡みは一切なかったが、娘の結婚に反対する、口下手で不器用な父親をリアルに演じている。
「男はつらいよ 柴又慕情(第9作)」作品の解説
銀幕のスター・吉永小百合をマドンナ役に登場させて、いよいよ「男はつらいよ」のシリーズ化が定着し始めた作品と言える。
本作品から、冒頭の夢のシーンが毎回差し込まれるようになった。
マドンナ役の吉永小百合の、清楚なお嬢様的イメージが作品全体に滲み出ており、観ている側も自然とさわやかな気分にさせられる。
この作品では、寅次郎の失恋パターンが原点に立ち戻り、マドンナが寅次郎の恋愛感情に気付くことなく、寅次郎の一方的な思い込みから失恋する流れになる。
寅次郎がマドンナとの年齢差を自覚しているのも特徴的で、寅次郎がマドンナの結婚相手を自らで探す素振りを見せるのもシリーズ初となった。
1970年から国鉄が始めた「ディスカバー・ジャパン(個人旅行者、女性旅行者を増加させるキャンペーン)」や、「アンノン族(女性雑誌「an・an」「non-no」を片手に旅行する女性たち)」といった、時代を象徴するような事柄が作品の中で描かれているあたりも、非常に興味深い。
そして、この作品からおいちゃん役が森川信から松村達雄へとバトンタッチされている。
夢のシーン

長楊枝を咥えた寅次郎が、悪徳金貸しに怯える若夫婦(博とさくら)を守る夢。
パロディ元は、当時人気のあったドラマ「枯し紋次郎」。
寅さんが何年も会っていない妹のさくらの前にこつ然と現れ、不幸に見舞われるさくらを救い出し、幸せへと導いていく。
シリーズ化される記念すべき最初の夢となる。
堅気にはなれない、根っからの渡世人・車寅次郎の一面が垣間見れる

この作品では、堅気の人間が普通にやっていることができない寅次郎の一面が垣間見れる。
それは、寅次郎が久しぶりに歌子と再会し、「とらや」の店の中で会話する、ほんの数分のシーンから読み取れる。
本来なら、久しぶりに歌子に会って喜ぶはずの寅次郎だが、いざ二人きりになってしまうと、いつも通りの寅次郎ではなくなってしまうのだ。
旅先で会った時は、あんなに楽しそうに会話が弾んでいたのに、「とらや」で会うと、まるで別の人と会っているかのような、よそよそしい態度になってしまう。
この寅次郎の態度は、29作のマドンナ・かがり(いしだあゆみ)の時にも顕著に現れた。
相手からの好意に気付くと逃げ腰になる寅次郎は、「男はつらいよ」シリーズを一通り観ている方であれば周知の事実だが、この寅次郎の態度は少し違っている。
単純に、男と女を意識した照れ隠しというよりも、渡世人・車寅次郎のコンプレックスからきているようにも見える。
堅気の人たちが普通にやっている、お客さんを招き入れる行為を寅次郎は自然にできないのだ。
もし、山田洋次監督の演出で、作為的にこのような寅次郎を描いていたとしたら、監督の演出は見事と言わざるを得ない。
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