この記事では、寅さん映画シリーズの「男はつらいよ 純情篇(第6作)」の作品の見どころを解説していきたいと思います。
<映画「男はつらいよ 純情篇(第6作)」の作品データ>

公開日 | 1971年1月15日 |
収録時間 | 89分 |
マドンナ | 若尾文子 |
ゲスト | 森繁久彌/宮本信子 |
監督 | 山田洋次 |
観客動員数 | 852,000人(シリーズ43位) |
同時上映 | 「やるぞみておれ為五郎」 |
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Contents
「男はつらいよ 純情篇(第6作)」作品のあらすじとキャスト
寅次郎は、旅先で結婚生活がうまくいかずに逃げ出してきた子連れの女性・絹代(宮本信子)と出会う。
絹代が宿に泊まるお金すら持ち合わせていないことを知った寅次郎は一晩だけ自分の宿に泊めて、苦労話を聞いて慰める。
次の日、故郷に帰ることをためらう絹代と共に、寅次郎は絹代の父親(森繁久彌)がいる五島へ。
「故郷に簡単に帰ってくるな」という父親の考えに共感した寅次郎であったが、望郷の念にかられて故郷の柴又へとんぼ返りしてしまう。
久しぶりに柴又に帰ってきた寅次郎は、別居中で「とらや」に下宿している夕子(若尾文子)とばったり出会い、夢中になってしまう。
一方、タコ社長の会社で働いていた博が、機械を自らで購入して独立を考えるが、タコ社長は猛反対。
博とタコ社長の間に入って相談に乗る寅次郎であったが、お互いの言い分を聞いているうちに話がまとまらなくなってしまい、放置状態に。
話がまとまったと勘違いしていた博とタコ社長は、宴会の席でお互いの食い違いに気付き、寅次郎を責め立てる。
父親の退職金があてにならないことを知った博は、独立をあきらめて結局タコ社長の会社で働くことに決め、話はうまくまとまる。
しばらくして、別居中だった夕子の夫が突然「とらや」に現れて、夕子と和解。
夕子を連れて自宅へ帰ってしまう。
突然の失恋で傷ついた寅次郎は、またしても柴又を出て行くことに。
マドンナ:若尾文子

<役名:明石夕子>
おばちゃんの遠縁。
小説家の夫(垂水吾郎)との結婚生活がうまくいかずに家を飛び出し、「とらや」の二階に下宿している。
旅先から帰ってきた寅次郎と「とらや」の店先でばったり出くわし、一目ぼれされる。
寅次郎の好意を遠回しに拒むんでみせるが、鈍感な寅次郎には気付くことはない。
突然、別居中の夫が「とらや」に現れて、元のサヤに戻っていく…
和服の似合う、高貴なイメージを持つマドンナ。
寅次郎にとっては、まさに高嶺の花といった女性と言える。
シリーズ中、初めて寅次郎の恋愛感情に気付いたマドンナであり、寅次郎の気持ちを傷付けないようにうまく配慮してくれた大人の女性である。
→「「男はつらいよ」に登場した寅さんの歴代マドンナ47人を徹底ガイド」
ゲスト:森繁久彌

<役名:千造>
絹代(宮本信子)の父親であり、長崎県の五島列島で旅館を営みながら一人で生活している。
夫との結婚生活がうまくいかずに戻ってきた娘を温かく迎え入れるが、夫のところにすぐ戻るように強く説得する。
娘の幸せを切に願う、温かく、そして厳しい父親役を演じている。
大御所らしい安定感のある演技で視聴者を釘付けにする。
渥美清との絡みも特別な目線で見入ってしまう。
ゲスト:宮本信子

<役名:絹代>
夫との仲がうまくいかず、子供を連れて故郷へ帰ろうとしているところで寅次郎と遭遇する。
父親の説得に応じて、夫のところに戻っていく。
宿賃を借りたまま飛び出していった寅次郎にお金を返すために、夫婦揃って「とらや」へ訪れる。
「男はつらいよ 純情篇(第6作)」作品の解説
大御所・森繁久彌を配役として起用するあたりからも、「男はつらいよ」が本格的にシリーズ化していくことがようやく見え始めた作品と言える。
「ふるさとは遠きにありて思ふもの(室生犀星)」という、寅次郎の語りから入っていく本編は、寅次郎の「故郷」についての思いと考えが色濃く表現された作品になっている。
ラストの柴又駅でのさくらと寅次郎の別れのシーンは、シリーズ中で最も感極まる兄妹の姿を描き出しており、電車のドアでかき消された寅次郎のセリフ「故郷ってやつは・・・」の場面では、情緒あふれる余韻を残すことに成功している。
あえてセリフ抜きで視聴者の解釈に委ねる演出は、見事と言わざるを得ない。
そして、今作で登場するマドンナは、シリーズで初めて寅次郎の好意に気付く勘の鋭い女性であり、配慮のできる大人の女性として描かれている。
寅次郎の勘違いぶり、無責任っぷりも相変わらず健在で、滑稽でおバカな寅次郎を十分に楽しませてくれる作品と言えるだろう。
今作では、9作目から二代目おいちゃんを務めることになる松村達雄が、おかしな医者役として初登場してくるところも見どころになっている。
シリーズ初となる、寅次郎に対するマドンナの心情が描かれる

これまでの寅次郎の恋愛は、一方的にマドンナを好きになり、そのことすら気付かれないまま失恋していく寅次郎の一人相撲のようであった。
しかし、今作ではシリーズ初、マドンナが寅次郎の好意に気付くという展開になる。
今まで登場してきたマドンナとは明らかに違い、今回のマドンナ・夕子は勘の鋭い女性として描かれる。
自分のせいで寅次郎が恋の病にかかっていたことに気付くのが早く、しかも寅次郎の好意を傷付けないようにお断りの意思表明もしてくれている。
寅次郎の気持ちがマドンナにしっかりと伝わっていることを考えると、この時初めて寅次郎はマドンナにフラれたという事実ができあがったことになる。
しかし、当の本人がその事実に気付いていないというのがまた滑稽であり、間抜けと言わざるを得ない。
今まで一人相撲の恋愛を繰り返してきた寅次郎にとっては、新たな展開になったといえる作品である。
寅次郎が考える「故郷」の定義とは?

この作品のテーマとなっているのが「故郷」。
定住する場所のない寅次郎にとって「故郷」とは、”いつでも帰っていける場所”のはずだった。
しかし、長崎の五島に住む絹代の父親の説教を聞いているうちに、「故郷」とは、”いつでも帰れると思ってはいけない場所”へと考えが変わっていく。
その瞬間を感じ取れるのが、長崎の五島で寅次郎が発した以下のセリフである。
これが、「故郷」の意味について寅次郎が悟った瞬間である。
電車のドアでかき消された「故郷ってやつはよ・・・」に続くセリフは何だったのか?
柴又駅で電車に乗り込んだ後に、寅次郎はさくらに何を訴えかけようとしていたのだろうか?
あのシーンのセリフを振り返ってみる。
寅次郎「そのことだけどよ、そんな考えだからオレはいつまで一人前に。故郷ってやつはよ・・・・」
この作品を通して、寅次郎は「故郷」の定義を”いつでも帰れると思ってはいけない場所”へと変えている。
つまり、「故郷とは、簡単に戻ってきてはいけない場所なんだ」ということを、さくらに訴えたかったのだと容易に想像がつくだろう。
寅次郎風に少し乱暴な言い方をすれば、以下のような内容のセリフを寅次郎は電車の中で発していたのではないだろうか。
「故郷ってやつはよ、もう捨て去らなきゃならねえもんなんだよ!!」
故郷を捨てる覚悟で飛び出したはずの人間が、いつまでたっても一人前にもなれずに渡世人として生きてしまっていることへのケジメを、あの時に付けようと決意したのかもしれない。
しかし、山田洋次監督がこのセリフをあえて聞こえないように伏せたのは、寅次郎が再び故郷の柴又に戻ってこれるようにさせたかったのだろう。
もしあの時、寅次郎が完全に故郷を捨て去る覚悟で電車に乗り込んでいたとしたら、このシリーズは二度と続くことはなかったのだから・・・・。
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