この記事では、寅さん映画シリーズの「男はつらいよ フーテンの寅(第3作)」の作品の見どころを解説していきたいと思います。
<映画「男はつらいよ フーテンの寅(第3作)」の作品データ>

公開日 | 1970年1月15日 |
収録時間 | 90分 |
マドンナ | 新珠三千代 |
ゲスト | 香山美子/河原崎健三 |
監督 | 森崎東 |
観客動員数 | 526,000人(シリーズ46位) |
同時上映 | 「美空ひばり・森進一の花と涙と炎」 |
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Contents
「男はつらいよ フーテンの寅(第3作)」作品のあらすじ
久しぶりに柴又に帰ってきた寅次郎は、縁談の話を持ち掛けられ、お見合いすることになる。
ところが、そのお見合い相手は寅次郎の昔から知っている駒子(春川ますみ)という亭主持ちの女性であった。
寅次郎は、亭主とうまくいっていない駒子のために二人の仲を取り持つが、そのために使った費用をとらやに請求するようにしてしまう。
案の定、怒ったおいちゃんとおばちゃんは寅次郎と大ゲンカとなり、寅次郎は柴又を出て行くことになる。
一カ月後、三重県の湯の山温泉に旅行に出かけたおいちゃんとおばちゃんであったが、偶然にも泊まった旅館で番頭をしている寅次郎と遭遇。
旅館の女将・志津(新珠三千代)に惚れ込んで働くようになった寅次郎の経緯を聞いて心配するが、そのまま柴又へ帰っていく。
一方、弟・信夫(河原崎健三)のことで力を貸してほしいと女将・志津に頼まれた寅次郎は、信夫とその恋人・染奴(香山美子)との仲をうまく取り持つ。
信夫と染奴は駈け落ちすることになるが、それがきっかけで志津は旅館をやめて結婚することを決意する。
そのことを寅次郎に言い出せずにいた志津は、旅館の従業員の口を借りて寅次郎に説明するように頼み込む。
志津の本当の気持ちを知った寅次郎はショックを受け、ひっそりと旅館を後にする。
「男はつらいよ フーテンの寅(第3作)」作品のキャスト
マドンナ:新珠三千代

<役名:志津>
湯の山温泉の旅館「もみじ荘」の女将。
5歳の一人娘がいるが、夫とは死に別れており、未亡人である。
弟・信夫が旅館を引き継ごうとしないため、旅館を1人で切り盛りしている。
品があり、清楚な美しさを持つ大人の女性。
その魅力に取りつかれた寅次郎は「もみじ荘」の番頭として働くことになる。
すべては寅次郎の思い込みが原因となっているが、見方によっては寅次郎をうまく利用し、ねぎらいの言葉すらかけずに別れていく酷い女性として映し出される。
演出の問題ではあるが、シリーズ中で最も悪いマドンナというイメージが強い。
→「「男はつらいよ」に登場した寅さんの歴代マドンナ47人を徹底ガイド」
ゲスト:香山美子

<役名:染奴>
湯の山温泉で芸者として働いている。
志津の弟・信夫の恋人。
病に侵された父親の借金を返すために妾になるか、信夫と所帯を持つか、の選択に迫られる。
ゲスト:河原崎健三

<役名:信夫>
志津の弟。
旅館の若旦那として跡を継げる立場でありながら、母親が亡くなってからグレ始め、後を継ぐ意志はなくなっている。
恋人の染奴が妾になるという噂を聞いて説得にやってくる。
その他のキャスト一覧
- 車寅次郎:渥美清
- お志津:新珠三千代
- さくら:倍賞千恵子
- 染奴:香山美子
- 駒子:春川ますみ
- 博:前田吟
- 信夫:河原崎建三
- 千代:佐々木梨里
- 信州の女中:悠木千帆(樹木希林)
- お澄:野村昭子
- つね:三崎千恵子
- 茂造:晴乃パーチク
- 為吉:晴乃ピーチク
- 梅太郎:太宰久雄
- 源吉:佐藤蛾次郎
- 徳爺:左卜全
- 吉井:高野真二
- 清太郎:花沢徳衛
- 御前様:笠智衆
- 竜造:森川信
<サブキャスト>
山内光男/石井愃一/花井緑太郎/大杉侃二朗/高木信夫/高杉和宏/土田桂司/山本幸栄/坂井久美/坂田多恵子/脇山邦子/藤間恵美/秩父晴子/水木涼子/白川恵子/光映子
「男はつらいよ フーテンの寅(第3作)」作品の解説
前作の公開から約2ヶ月という短い期間で作り上げたシリーズ第3作目。
この作品で山田洋次は脚本のみを担当し、監督は森崎東が務めている。
そのため、山田洋次監督がいつも描いている家族や故郷をテーマに描く作風とは違い、渡世人・車寅次郎の人間像を深く掘り下げたような作品になっている。
まさにタイトルにもあるように「フーテンの寅」にピッタリ合うような作品に仕上がっていると言えるだろう。
柴又が映し出されるのは映画開始の最初のほうだけであり、ほとんどが旅先での寅次郎を描いたまま終わっていく異色の作品である。
冒頭のシーンで、樹木希林(クレジットでは悠木千帆)が寅次郎が泊っている旅館の仲居役として出演しており、この作品で使われた寅次郎のセリフ(インテリのくだり)が、過去の東大入試問題として出題されたのは有名である。
寅次郎がシリーズ中最も酷いフラれ方をする
この第3作は、寅次郎がシリーズ中最も酷いフラれ方をする作品になっている。
基本的に、男はつらいよシリーズの初期の作品は、寅次郎が一方的にマドンナを好きになり自滅していくパターンが多い。
マドンナが寅次郎の好意に気付いているかいないかは、もはやこの映画シリーズにとってたいした重要なことではない。
なぜなら、映画のタイトルにもあるように、寅次郎が一方的にマドンナを好きになり、自分だけがフラれた気分になって終わっていくという流れを観客は求めているからだ。
ところが、この第3作の寅次郎の失恋はその中でも群を抜いている。
無様すぎるほどに、この作品では寅次郎がひとり相撲を繰り返してしまっているのだ。
哀しいのは、寅次郎の気持ちがマドンナ・志津に一切伝えられていないということだろう。
伝えたつもりで旅立つ寅次郎がまた哀しく映ってしまうのだ。
しかし、この無様すぎる寅次郎をあえて作り出すことで、森崎東監督は力強く生きるフーテンの寅次郎を見事に描き出したとも言えるだろう。
家族や故郷よりも渡世人・車寅次郎の人物像をテーマに描かれた異色作
この作品の見どころは、渡世人・車寅次郎の人物像に焦点を当てた物語になっているところだろう。
これも、森崎東監督が作り出した独特の世界観とも言える。
寅次郎がとらやの人たちと関わった出来事に深い意味はなく、それよりも寅次郎自身の生き様を描くことがメインとなっているのだ。
もちろん、この作品全体を通して寅次郎を観た場合、いつものコミカルで、ドジっぷりは健在である。
しかし、叩かれても踏みつけられても、それでも這い上がってくるようなバイタリティ溢れる寅次郎が見れるのだ。
そして、自分の娘を妾に出さなければいけない元テキヤの父親を相手にし、寅次郎が仁義を交わすシーンは見応え満点である。
おそらく、山田洋次監督であればこういうシーンをあえて入れてくることはなかっただろうなあと思えてくるのだ。
それほど、この第3作「男はつらいよ フーテンの寅」という作品は、渡世人として生きる寅次郎をリアルに描き出そうとしているのがわかる、少し異色な作品になっているのである。
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